出発
2010年1月22日
トインはこの前日、弁護士になった。合計2年間つづいた大学のストライキを経て、5年制の法学部を7年間かけて卒業。その後、司法学校に1年間通い、見事ストレートで司法試験に合格した。
司法学校に通学中、マラリアとチフスの合併症を患い、肺炎もおこした。肺の痛みをこらえ、吐き出る血におびえながら勉強をつづけた。眠くなるたびに自分自身に言い聞かせた言葉。
「これで試験に落ちたら、もう一度学費を払うことなんてできない」
朝7時過ぎ、早朝は10度台だった気温が25度前後まで上がってくるころ。乾季の太陽はわたしたちを射しはじめた。すでに多くの旅人や物売りの人びとがバスのまわりに集まっている。ナイジェリアの長距離バスのほとんどは、白のトヨタ・ハイエース。授与式のある首都アブジャまで陸路10時間の旅。招待したかった母親と3歳の息子は来ることができなかった。家族みんなを代表して来たわたしを、トインはバスが発車するまで見送ってくれた。職探しと子育てというこれからの大きな不安を抱えながらも見せてくれた彼女の笑顔は、バスの窓越しでもまぶしかった。
(毎週土曜日更新)