バイクに花を
2010年2月13日
広大な大学キャンパスには、たくさんのバイクタクシーが走っている。学生たちは、20~30ナイラ(約12~19円、2010年2月現在)で、各学部やバス停、食堂や銀行などへ移動ができる。灼熱の太陽に照らされていると、数百メートル歩くだけでもかなりの体力を消耗する。バイクタクシーを頻繁に利用する教員や比較的裕福な学生たちも少なくないが、交通費を節約しようと歩く人が大半だ。20ナイラあれば、水とスナックを買って空腹から逃れることができるし、痛み止め薬なら3回分(6錠)買うことができる。けれども実はそれ以上に、運転マナーの悪さやあまりの事故の多さから、乗り物としても職としても、ナイジェリアでバイクタクシーは好まれない。
この日すでに歩き疲れていたわたしは、しかたなくバイクタクシーに乗ることにした。そこには3、4人の運転手が待機しており、そのうちのひとりにわたしはたずねた。
「この花、どうしたんですか?」
「そこに咲いてたからとってきたんだ。花が好きでね」
花を好む、育てる、といったことはナイジェリアでは珍しい。花が育たない環境ではけっしてないのだが、花を贈ったり、テーブルの上に切花をさした花瓶があったりすることはほとんどない。野生の草花が多いせいだろうか。いや、都市には緑が少ないし、緑のほとんどない住宅地も多い。ときおりホテルや豪華な家の塀から、ハイビスカスやブーゲンビリアが鮮やかな花びらをのぞかせていて、はっと目をやることがある。
花を飾ることのない地で、花が飾られるはずのないバイクに花。走るバイクの上、風を切ってまたたく黄色い花びらが、わたしの疲れと一緒に飛んでいく。運転手のジェリーさんと話をはずませながら、わたしはバス停へと向かった。
(毎週土曜日更新)