妹へ届かなかった手紙
2010年5月1日
2010年4月19日、ロンドンの空港が再開されないまま5日が過ぎ、わたしは成田空港をあとにした。バックパックに押しこんだ一通の手紙は、妹へ届かなかった。
「さっきから2時間も待ってるのに、何も変わらないじゃないか」
「娘の試験が来週はじまるんです、どうしても明日までに飛行機に乗せてください」
思い思いの事情を抱えた人びとの長い列が、チェックイン・カウンターまで連なる。スーツケースが積まれたカートにもたれかかる白髪の男性が広げた英字新聞には、アイスランド火山の噴火とヨーロッパ各地の空港大混乱を報じる記事。その後ろで、半そでに短パン姿の金髪の男性が、4月半ばに雪降る異常な寒さに両腕をさすっている。
ティティは8年間、ナイジェリアの家族に会っていない。今年4月にロンドンへ行くことが決まったわたしに、姉のトインは、この手紙をたくした。
4年前のあの日、道を行く大勢の買い物客をかきわけて、トインと同じひとみを持つ小柄な女の子を探した。待ち合わせは、ティティがバイトをしていたオックスフォード通り沿いの薬局前。
「娘とふたりで待ってるから、バス停に着いたら電話してね」
先週届いた、ティティからわたしへのメール。簡単に送れるメールだけど、母国の姉から異国の妹へ、思いがつまった肉筆の手紙。荷ほどきして出てきたその手紙とバスの番号のメモ書きは、机の引き出しのなかで、渡航を待っている。
(毎週土曜日更新)