その顔を見せて
2010年5月8日
「明日来ると思ってたのに……」
着古したTシャツに膝丈のスカートでミシンに向かうタヨが、残念そうに言う。アーティストのパパケイの夫人、ママケイが営む仕立屋に見習いで通うタヨと、この翌日、わたしは記念写真を撮る約束をしていた。4か月近くつづいた大学のストライキが解除されることになり、翌週、タヨは大学がある隣の州に戻ることになっている。
一緒に撮れるならそれでいい。着飾ってポーズをキメた肖像写真よりも、自然なままをとらえたスナップ写真のほうがいい。そう勝手に思って、ごつい一眼レフをしょっちゅうみんなへ向け、ファインダー越しにみんなを覗く。突出したレンズと黒いボディで右目と右頬、鼻と口までも隠し、左目は細めてひとみを見せない。こちらを見るみんなの気持ちを想像する間もなく、シャッターを切ってきた。
翌日、タヨは、ピンクのブラウスに黒のロングスカートで身をつつんでいた。ブラウスと同じ色のチョーカーとブレスレットでアクセント。たっぷりのグロスでくちびるを輝かせ、わたしの到着を待っていた。
「ちょっと待って!」
と、タヨたちは白い粉を顔にはたきだす。これがなければ肌がてかってしまうらしく、粉を顔にまんべんなくのばすみんな。かまえたカメラを、胸までおろすわたし。そのままで十分きれいなのにと思いながらも、ただみんなを見ていた。シャッターを切る前の、穏やかな数十秒が過ぎていく。
(毎週土曜日更新)