空をわたる人びと
2010年5月15日
「なんの本を読んでるんですか?」
左の座席に座るタイ人の青年が、本のなかのモノクロ写真を興味深そうにのぞきこむ。
「今から55年くらい前にアフガニスタンを旅した人の探検記」
わかったような、わからないような顔をする青年。わたしは本を閉じ、イヤホンを外した。
梅棹忠夫さんの『モゴール族探検記』(岩波書店、1956年)という本だと説明したが、伝わらなかった。休暇を利用して友人を訪ねるのだと聞きとれたが、彼はほとんど英語をしゃべれない様子。さっきまでイヤホンなしで映画を見ていた。不安というよりかは退屈そうにしている彼と、身ぶり手ぶりを交えながら、入国審査の書類を一緒に記入する。
鳴りやまないエンジン音のなかの静寂。閉ざされた空間で、一路おなじ場所へ向かって空をわたる人びと。この平穏なときは、着陸すればひとたまりもなく消える。大統領だったウマル・ヤラドゥア氏は、一昨日逝去した。グッドラック・ジョナサン新大統領政権が誕生したばかりの現地は、どのようになっているだろうか。
振り向けば、うっすらと青黒い光に照らされる人びと。故郷へ降り立つまえの彼らは、どんな夢を見ているのだろう。
(毎週土曜日更新)