息子との約束
2010年7月24日
「司法学校から帰ってきたら、もう離れないからね」そう言った母の言葉を、息子は忘れなかった。
3歳のロティミを10か月のあいだ実家に残し、トインは司法学校に通った。司法試験を終えるとすぐ、彼女は山で夜どおし合格祈願をしようとした。わたしがあずかるつもりだったロティミは、「約束どおり」母について行くと言ってきかなかった。その晩、冷えこむ山のなか、祈る母の足もとで息子はぐっすり眠った。
晴れて弁護士になったトインは、実家から通える司法事務所を探した。出勤前にはロティミの幼稚園のお弁当をつくる。週末は一緒に教会へ行き、午後洗濯をすませたら、ふたりで昼寝をする。
4歳になったロティミを連れて、トインが訪ねてきてくれた。たっぷりと一緒に過ごして、ふたりを見送る日曜の午後。バスはエンジン音と灰色の煙をたなびかせ、カーブの向こうへと進んでいく。ふたりを乗せたぐんじょう色の車体は、南西のつよい光を浴びていた。
(毎週土曜日更新)