Open Network Lab
2010年10月30日
今回は、これまでのソーシャルメディアや研究の話とは趣向を変えて、一人企業としての筆者の最近の活動と、それを通じて感じたことなどを綴ってみたいと思います。
シリコンバレーの投資家へのプレゼンテーション
先日、Twitterや価格.comで有名なデジタルガレージが主催するThe New Context Conference 2010において、筆者らは一人企業のプレゼンテーションを行いました。これは、一人企業が数回の審査を経て獲得した機会であり、筆者らのような国内のスタートアップ企業がシリコンバレーを含む国内外の投資家や起業家に対してピッチをする(売りこむ)機会が提供されました。売りこみの成果は具体的なリリースができる段階になってから改めて詳しく紹介しますが、日本国内にいたらほかでは得難いような貴重な経験をすることができました(こちらの@digitalbearによる写真から2日間の雰囲気がわかります)。
図1. 一人企業についてプレゼンテーションする筆者(撮影: @digitalbear)
Open Network Lab
このプレゼンテーションの機会を得たきっかけは、一人企業が、デジタルガレージらが主宰するOpen Network Lab(ONL)によるSeed Acceleratorプログラム(SAプログラム)に応募し、審査を通過したことによります。
ONLとは、日本の主要インキュベータの1社であるデジタルガレージ、カカクコム、オンライン通販のネットプライスの3社が共同で運営する起業志向のエンジニアの短期育成を目的としたインキュベーションプログラムです。
SAプログラムは、世界展開を視野に入れたインターネットサービスの開発を通じて起業を志すエンジニアを育成するために2010年4月に開始したONLの活動のひとつで、高い技術力と有望なビジネスプランを有する個人やグループを公募し、選抜したチームに対して3か月間、サーバー環境やオフィススペースといった施設や活動資金を提供するとともに、経験豊富なエンジニアや起業家、経営者といったメンター(指導者)によるアドバイスを行う、というものです。
メンターとして名前を連ねるのは、デジタルガレージの伊藤穣一氏、林郁氏、安田幹広氏、DGインキュベーションの南一哉氏、ネットプライスの佐藤輝英氏をはじめ、LinkedInのファウンダーであるReid Hoffman氏、 NapsterのファウンダーであるShawn Fanning氏、オライリー・メディアのファウンダーTim O’Reilly氏、さらにY Combinatorのメンターで、エンジェル投資家、起業家としても知られるNils Johnson氏など錚々たる顔ぶれを揃えています。
プログラムを修了したチームには、国内外のベンチャーキャピタリストや起業家に、サービスに関するアピールを行う機会が与えられることになっており、一人企業がNew Context Conferenceにて行ったプレゼンテーションは、このプログラムのハイライトともいえるイベントでした。
短く濃い3か月
一人企業は、このSAプログラムへの参加を承諾し、9月末までの3か月間に、付加価値の高いサービスとして具現化すべくONLを拠点として開発活動を行ってきました。
この3か月を振り返ってみて思うことは、非常に濃密な期間だったということです。このプログラムに参加するまでは、プライベートをのぞけば、大学に所属し研究者のコミュニティとの交流が主でした。
しかし、わずかこの3か月間の間に、世界的なベンチャーキャピタリストとして知られクリエイティヴコモンズの最高経営責任者も務める伊藤譲一氏に一人企業をとりまく世界の情勢についてレクチャーを受け、国内外で活躍する同世代のスタートアップ企業の仲間と出会い、いま世界中が注目する優れたスタートアップを輩出し続けるY Combinatorのメンターも務めるNils Johnson氏からスタートアップ企業のマーケティングやビジネス開発のいろはを学び、国内外のテックスタートアップをジャーナリストの視点で支援し続けているTechCrunchやAsiajinの記者の方々と情報交換をすることができたのは大いに刺激的でした。さらに、Twitterの創業者であるBiz Stone氏やEVERNOTEのCEOであるPhil Libin氏、前述の伊藤譲一氏、Nils Johnson氏の前で開発してきた一人企業のプロダクトを売りこむプレゼンテーションをする機会を得ました。
図2. デジタルガレージの伊藤譲一氏(左)とTwitter社共同創業者のBiz Stone氏(右)。(撮影: @digitalbear)
図3. Nils Johnson氏(右)と筆者(左)。(撮影: @aerodynamics)
また、SAプログラムに参加しているほかの6チームや、それをサポートしてくれているONLの事務局のスタッフも、それぞれの分野でのスペシャリストであり、同時に、考え方が柔軟で未来志向であり、新しいことに対する挑戦を切磋琢磨しながらも互いに応援する風土に身を置くことができました。
ぼくが学生時代に在籍していた慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)には、その当時、多くの国内外の専門家との出会いや、オープンで、未来志向で、プラス思考な風土がありました。良い師匠にも出会うことができました。しかし、大学を出て、東京に移動し、ビジネスの世界に足を踏み入れてからは、同様の文化圏とはかけ離れた場所にありました。
ぼくにとってのこのONLという場所は、ぼくのわずかな経験から定義するならば、日本国内にありながら、シリコンバレーの文化圏にいるような環境をくれるものです。
世界へ
ここではすべてを紹介することはできませんでしたが、もしも、ぼくが独立した当初のような純粋な「一人企業」を続けていたら得ることができなかった貴重な体験やご縁を、この3か月間という短い期間で得ることができました。
ぼく以外にも、東京には、あるいは日本には、多くの一人企業がいるはずです。日本では社会や制度が起業を後押ししないといわれていますが、一人企業として、世界を変えたい、あるいは、誰かを幸せにしたいといった思いがあるならば、このような素晴らしい機会はなかなかありませんから、機会があればぜひ挑戦してみることを強くお薦めします。日本にいながらにして、世界に通じる道がここにはあります。
一人企業はまだまだ始まったばかり。ぼくらにとっては、これからが本番です。世界を変えるような実践をお楽しみに!
一人企業を取り巻く環境について、日本のスタートアップを取り巻く状況や米国のY Combinatorなどについては、また別の機会に紹介致します。