清水弘文堂書房マーク 清水弘文堂書房 SHIMIZU KOBUNDO


帰り道

2010年11月20日

2009年1月29日 イフェ、オバルフォン通りにて

疲れているのに、お腹がすいているのに、トイレをがまんしているのに、家路は遠かった。バスに乗りこめば、隣前後の人たちとの「ふれあい」がまたはじまる。その日の汗と砂ぼこりが染みついた体を、たがいにくっつけて座る。いつもの渋滞や運転手の荒い運転に、みんなが野次やジョークを飛ばす。

バスを降り、目と手で合図して車とバイクを止めながら通りを渡り、市場へ。電気のない家に冷蔵庫は存在しないから、生ものは毎日買いに行く。おやつと夕飯の材料を買いそろえたら、そこから下宿まで300メートル。「おかえり」「おつかれさま」「どこから帰ってきたの?」――際限なく語りかけられることば。挨拶通りとでも呼ぼうか。9jaにひとりの帰り道などなかった。

決まっていつもの道を自転車で走り抜けて帰る、日本の暮らし。誰とも話さないし、目も合わさない。その必要がないから。小腹がすいて、コンビニでチョコレートを買う。レジ打ちの人の顔は思い出せない。信号待ちで人や車が視界に入るけれど、ひとり考えごとをしながら、ただ青信号を待っている。

便利が欲しい、わずらわしさはいらない。そう求めてここまで来たわたしたち日本人は、この先どこへ向かうのか。ふっと振りかえったときに、帰り道はもうない。どこかへ、帰れないものだろうか。

Photo
パパケイの運転で、わたしは手放しでそのバイクにまたがってイフェの大通りを撮影した。夕方5時、仕事や大学の授業を終えた人たちを乗せたバスや帰宅途中の乗用車で、反対車線は混みあいだす。
2009年1月29日 イフェ、オバルフォン通りにて

(毎週土曜日更新)