悪魔を追い払えば
2010年12月20日
約束の時間ぴったりの朝10時。木彫家のアヨデレさんの姿はまだない。工房の壁にもたれかかっていると、近所の少年が小さな木の椅子を持ってきてくれた。腰かけて5分少々、いつものスズキのバイクがこちらへ向かってくるのが見えた。
エンジンを切らないうちにわたしを見てほほえんだアヨデレさんに、ひざまずいて挨拶をした。アヨデレさんはすぐに工房へ向かったが、入口で足を止めた。屋根を支える柱に両手をかけ、目をつぶること1分強。ぶつぶつと小声でなにかを唱えている。
目を開けたアヨデレさんは工房へ入り、大きな木彫りの椅子をわたしに差しだした。彫りはじめると話しかけられなくなるから、座って急いでたずねた。
「さっきの、お祈りですか?」
「あぁ、毎朝入るまえに、神にね。そうすると悪魔がもう入ってこないからね」
木の塊に刃を入れる勢い、刃先を見つめる瞳の鋭さ――ただまっしぐらに彫りつづけるアヨデレさんの秘密のひとつを、この無敵の空間で知った。
(毎週土曜日更新)