父はいつもいる
2011年2月12日
兄に手を引かれて幼稚園から帰ると、いつも父が玄関の扉を開けてくれる。それでわたしは決まって言う、お腹がすいたと。父はアトリエの机の引き出しから10ナイラ札(約6円)を取りだして、姉に渡す。姉はわたしの手を引いて、隣の店で棒つきキャンディーや炒りピーナッツを買ってくれる。
ほおばりながらアトリエに入ると、筆を握った父にいつも言われる。着替えてきなさいと。姉に制服を脱がせてもらって、普段着を着せてもらうとまたアトリエへ行く。おやつを散らかさなければ、そこで寝そべってもたいてい怒られない。いつの間にか目が覚めると、父はまだ紙に色を塗っている。
だんだん外が暗くなるころ、いつも父はバイクに乗って出ていく。姉たちと遊ぶのがたのしいから、行ってらっしゃいを言い忘れることもある。でもお帰りなさいはかならず言う。父のバイクの音がして、父の後ろに座る母が見えたら。
また目が覚めて、幼稚園へ行く時間になった。父はいつもわたしの片腕をつかんで、バイクに乗せてくれる。ガソリンタンクの蓋のすぐ手まえ、一番まえの特別な席。背なかで父がささえてくれているから、ちっとも怖くない。
(毎週土曜日更新)