タイヤよ、歩きつづけ
2011年3月26日
街でふと、バイク修理工の足もとに目をやった。黒のゴム地にシンプルなデザインで、鼻緒のむすび目の赤がアクセントのサンダル。少々ごつそうにも見えるけれど、その格好のよさにわたしもひとつ欲しくなる。友人に話すと、「ああ、アデジャのこと? あんなものが欲しいの?」と笑いながら、店へ連れて行ってくれた。
店の入り口には、古タイヤを開いて延ばしてペロンとした長いゴムが縦に横にすだれのように垂れさがっていた。アデジャは使えなくなったタイヤからつくられる。何十万キロもの道を走りぬけてここへたどり着いたのだろう。幾度の衝突・脱輪を経験してきたのか――この世に生まれて刻まれた深い凹凸のなくなったタイヤを、なでてみる。なめらかなはずの表面は砂とゴム粕に覆われて、なおざらざらしている。
友人はおしえてくれた。アデジャとは「荒れ地でも歩いていける」という意味だと。
両足でタイヤを踏みしめる。生まれて、生きぬいていくタフさに触れた。
(毎週土曜日更新)