妻の資格
2011年5月14日
奮発してたっぷりのシチューをつくり終えたあとに「やっぱり行けない」と電話がくると、がっかりする以上に腹が立つ。炎天下のなか市場へ出かけて食材をもとめて2時間。電気がなければ冷蔵庫もない台所で3時間。手間暇かけてつくったオクラと鶏肉のシチューだった。やっとひとりでつくれるようになった、9ja料理。口にする友人たちは、「もうナイジェリア人と結婚できるよ」といつも褒めてくれる。お客さんが手土産を持って行くよりも、むしろお客さんに食べものを出すこと、最低でも飲みもの(コーラやファンタなど瓶や缶に入った清涼飲料)を出すこと。それは9jaで大切にされているマナーであり、ホスピタリティである。
腹立たしさと疲れで不機嫌そうに鍋を洗うわたしに、同じ下宿に住む女性ふたりが言った。
「あきれた。それじゃあ9jaで結婚できないわね」
手料理はアフリカの妻にとって夫をつなぎとめる大事な手段。妻は5時間でも10時間でも台所に立ちつづける。夫が帰って来なくてもけっして涙を見せない。気丈にふるまい、誰にも負けない手料理で夫を迎える。弱さを見せたら夫にバカにされ、都合よく利用されるかもしれない。料理の腕と忍耐強さは9jaで妻としてやっていくための資格なんだと、ふたりは笑っておしえてくれた。
この資格、世界中のどこでも、妻にとって必要なのかもしれない、と部屋で寝そべり、天井を見上げた。
(毎週土曜日更新)