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病と闘う

2011年8月27日

2009年6月23日 イフェ、大学病院までの道のり、路線バスのなかにて

9ja の暮らしにつきもののマラリア、チフス、肺炎、黄熱病などの命をおびやかす病。人びとは、ときにそれに打ち勝ち、ときにそれとつきあい、またときにそれに屈する。

トインはマラリアとチフスに同時にかかり、直後、肺炎をおこした。わたしは電話をかけ、祈ることしかできなかった。毎晩、電話で細くて小さな声で返ってきた、「よくなってきたよ」の一言に、わたしは勝手に安心していた。

薬を買える幸運な人たち。待合室の長い列で待ちつづける患者たち。ただ神に祈るしかない家族や友人。残してはいけない幼い子どもを思って、信じて、祈る患者。毎日多くの人たちが病と闘って生きている。

病に打ち勝った日にトインは言った。
「9ja でひとりで暮らしているあんたに心配をかけたくなかった。だから言えなかったよ、血を吐いた日も、死ぬんじゃないかと恐ろしかった夜も」

Photo
バスで病院へ向かうトインと息子のロティミ。ふたりはわたしに会いにラゴスからイフェまで来てくれたのだが、トインは肺炎で胸の痛みを抱えていた。わたしたちはこの日、予定を変えて大学病院へ急いだ。トインはこの病院の診察券を持たなかったが、わたしの主治医の好意で、時間外にとくべつに診察してくれた。このとき処方してもらった薬で、トインの肺炎は完全に治った。その強力な薬は日本円で約2,500円した。通常、一般の人たちが飲む(手にとどく)薬は、約10~100円だ。
2009年6月23日 イフェ、大学病院までの道のり、路線バスのなかにて

(毎週土曜日更新)