2011年9月3日
高い声で犬が吠えて、扉をドンドンたたく音。午後3時過ぎ、娘たちが学校から帰ってきた。「ただいま」と言いながらアトリエに入ってきて、一言。
「パパ、おなかすいた」
ぼくは引き出しから小銭をとりだして長女に渡す。妹たちと一緒に買っておいで、と。渡せない日もある。飴玉ふたつ、ピーナッツ15粒ほど、小カップ1杯のキャッサバ粉。このうちのどれかをひとつ選ぶ。きょう2度目の食べものをうれしそうにほおばる娘たち。ぼくは何をしているんだろう。
この職業に憧れていたわけじゃない。ほかにやれることなんかなかった。ただ描くことが好きだった。気づけばぼくは、アーティストになっていた。家族をちゃんと養いたい。50歳はもう目のまえだ。
でもどうやって? ――神さま、ぼくに力をあたえてください。
Photo
保育園から帰ってきてすぐ、小さいカップ1杯ぶんのガリ(キャッサバ芋の粉を水でひたしたもの)を飲むパパケイの三女オペと、できあがったばかりのパパケイの作品(カトリック教会におさめるレリーフ彫刻)。ガリは「貧困の食」ともいわれ、ナイジェリアで手に入るもっとも安い食べ物である。アーティストのパパケイに安定した収入はなく、借金に頼りながら、その日暮らしで妻と5人の子どもたちを養っている。「ダディ、エビンパミ (Daddy, ebi n pa mi)」とは、子どもたちが父親に毎日言う言葉で、「パパ、おなかすいた」の意味。イレ・イフェのアーティストのなかには経済的に成功している者たちもいるが、そうではない者たちのほうが多い。彼らは生活に苦しみながらも、神に祈り、親戚や友人たちと持ちつ持たれつ暮らしていき、アーティストでありつづけるのだ。
2009年9月30日 イフェ、モーレ地区のパパケイの自宅にて
(毎週土曜日更新)