イヤ・アラロ
2011年10月29日
隣街のオショボに、藍染め工房がある。と言っても、土壁とさびついたトタン屋根の古い家屋に囲まれた空き地に、土器製の坪や道具がいくつか、細い木と竹で支えられたツギハギだらけの屋根の下で寄せてあるだけの場所。ワンピース用のいくつもの布を藍色に染めたいわたしは、専門は絵画だが伝統的な藍染めにも興味を持っているアーティストのパパケイを誘って、この工房をこれまで何度も一緒に訪れている。
藍色に深く染まったしわしわの手をふって迎えてくれるのは、工房の主、イヤ・アラロ(ヨルバ語で「藍染めのおばさん」)。最初は「金持ちのガイコク人とその付き添い人」だと思われていたようだけれど、足しげく通ううちに、「伝統的なものに興味しんしんの娘と息子」のようにわたしたちを迎えてくれるようになった。古いものならなんでも好きなのかと思っているのか、自作の藍染めの布だけではなく、40年まえの織り布や、かつて染料としてつかっていた老木も家の奥から持ち出してきて、昔話をしてくれる。
「ぼくの母親にどこか似てるんだよね」
パパケイはそっとわたしに言った。肝がすわっていて強気だけど、ユーモアとあたたかさに溢れるイヤ・アラロ。昔話をしてくれたあとには、「で、これも買うかね?」と、ちゃんと商売っ気を忘れないところも憎めない。
(毎週土曜日更新)