姉妹
2011年11月5日
11月とは思えないほどに汗ばむ陽気の午後、自動販売機のまえで立ちどまって選んだのはパイナップルジュースだった。甘くて濃い果汁をストローで吸い込みながら思い出したのは、いまにも消えそうな声で妹が口にした「パイナップル……」のひと言。
あの日、電話をすると妹はマラリアで寝こんでいた。「何なら食べれる?」とたずねて、果物屋さんへ寄って家へ駆けつけた。でも居間で旦那さんや息子や友だちとDVDで映画を観ながらとても元気そうにしている姿を見て、気が抜けた。足もとにたまっていた洗濯ものの心配から将来の夢の話までしゃべりつづける妹と、窓の外が濃紺一色になるまで一緒にいた。
末っ子のわたしを「お姉ちゃん」と呼ぶ唯一の人、甘えてばかりのわたしが甘えさせてしまう世界でただひとりの妹、ウチェ。砂ぼこりのバス通りを、かしましい市場を、路地裏の凸凹を、きょうもおなかの子と一緒にゆっくり歩いているのだろうか。胸が満たされると、空のパックをぎゅっとにぎってビルの谷間をまた歩きはじめた。
(毎週土曜日更新)