父よ、母よ
2011年12月17日
木彫家アフォラヨンの自宅を訪ねた。15年の歳月をかけて建てたばかりの平屋の扉は重く頑丈だが、窓枠には白色の厚手のビニルシートがさげてあるだけで、網戸も窓ガラスもはめられていない。壁は内側も外側もコンクリートのままで、屋根には数十枚のトタンがのっかっているだけ。光の入らない居間に並べられた椅子とテーブル、ドアのないふたつの部屋の入り口にかけられた布の隙間から見える寝具、ガス台のない台所の床に重ねられた食器は、アフォラヨンがここに家族と住んでいることを静かに告げる。
裏庭の小さな家庭菜園のそばで、彼のライフヒストリーを聞かせてほしいと頼む。アフォラヨンは部屋へ戻って、なにかを持って庭へ出てきた。父親と母親の写真だった。
貧しい農夫だった父親は、家族のために懸命に働いた。息子を中学校へ進学させてやることはできなかったけれど、弟子入りして夢中に木を彫りつづけた息子は、やがて一流の木彫家となってひとり立ちした。けれども作品が売れない時代は長い。病に伏した父親の死を見とどける以外、息子はなにもすることができなかった。いま、アフォラヨンの希望は、子どもたち3人を大学へ進学させること。そして、車を買って、田舎に住む母親のところへ通うこと。
葛藤と希望がにじむ光彩をひとみからこぼしながら彼は言った。
「あたらしい時代は来ますから」
(毎週土曜日更新)