煩悩即菩提
2011年12月31日
d beauty of9ja――誰かに経験と思いを伝える文章を手紙以外で書いたのは、これがはじめてだった。本をろくに読まず、ボキャブラリーが貧困なわたしが、文章をとおして、人になにかを伝えようとしている。そうして過ごしてきたこの2年間が、信じ難くもある。
中学生のころからミュージシャンになりたかった。音を奏でるイメージは、いまでも頭から離れない。歌うように、鳴らすように、伝えられたらいいのにと思っていたが、簡単じゃない。言葉を探し、文章をつなげ、活字で表現するということ。わたしを知らない誰かに伝えるため、目で見たこと、肌で感じたこと、脳裏に浮かぶものを書くことに思いのほか骨を折る。友だちに書く手紙なら、迷わず筆が進むはずなのに。目を見つめれば、きっといくらでも語りかけることができるだろうに……。
頑固であきらめの悪いわたしは、これから一体どれほど柔軟に、まっさらに、書いていくことができるのか。誰に頼まれるでもなく、なにかに追い立てられるわけでもない。無理して伝える必要なんてない。それでも伝えたい欲望がとまらないのは、伝えたいものをわたしにあたえてくれる人たちがいるからだと言ってしまうと、ずるいだろうか。
(毎週土曜日更新)