アフリカ美術の人類学 ナイジェリアで生きるアーティストとアートのありかた
緒方しらべ 著
第30回日本アフリカ学会研究奨励賞(2018年度)受賞!
ナイジェリア南西部、ヨルバ神話の舞台となる古都イレ・イフェで、たくさんのアーティストがアートなるものを制作して暮らしている。美術館や博物館、書籍や論文で取りあげられることはほとんどない。経済的に成功している者も、していない者もいる。それでも彼らは「アーティスト」と称している。イレ・イフェにおいてアーティストであるとはどういうことなのか。彼らの活動や生活は、地域とどう結びついているのか――。
ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)、国立民族学博物館出身の若手研究者が10年にわたるフィールドワークを集成。
二〇〇三年からナイジェリアでフィールドワークを行う中で、「この作品を買ってくれ」と懇願されたことが何度もある。懐が許す限り買うのだが、そうして買った作品を私が素敵だと思うことはほとんどなかった。日本で生まれ育ち、イギリスで美術史の勉強をしていた私は、「芸術は簡単にはお金に換えられない。頼まれて買うのではなくて、感性にうったえかけられて初めて自分から買うもの」だと思っていた。だから、ナイジェリアのアーティストの作品販売への貪欲さには幻滅すらした。しかし何度か仕方なく作品を買ったり、買わなかったりするうちに、相手(アーティスト)とのやりとりや会話が次第に増えていった。今日食べるものにも困ってさっき畑を耕してきたばかりなのに、私が作品を買う意思を見せなくても何一つ求めてこないアーティストもいる。無償で作品をくれるアーティストもいるが、そういう場合はたいてい、素敵とは思えずもらっても困ってしまうような絵や、日本でもどこでもありそうな動物の彫刻だったりする。しかし彼らはそれを誇りを持ってつくっており、それを求めて買う人もいる。こういうものがアートだとか、ああいう作品が良いという私の価値判断は、イレ・イフェの現実の中で揺らいでいく。そうして様々なアーティストと接するうちに、いつの間にか私は、家族、友人、恩師への贈り物としてのグリーティングカードや誕生日カード、木彫やビーズ細工、さらには自分自身の肖像画の制作をアーティストたちに依頼するようになっていた。値段交渉は欠かさない。作品は「上出来」なこともあれば、そうではないと思うこともある。
(pp.7-8)
これから本書で見ていくアフリカ美術は、美術館や博物館で取り上げられない作品がほとんどである。アーティストの多くはアフリカ美術に関する書籍や論文にも登場しない。これはアートとは言えないだろうと思ってしまう作品もあるかもしれない。しかし本書のねらいは、アフリカの一都市でアートなるものを制作し、それを販売して生活するアーティストと呼ばれる人びとの営みに焦点をあてることである。
(pp.9-10)
- ISBN・分類コード
- 978-4-87950-627-6 C3039
- 価格
- 7000円(本体)+税
- 判型
- A5判 上製本
- 発行年月
- 2017年2月