完成の瞬間
2010年2月20日
「本当は画家なんだけどね。なんでもできないとここではやっていけないし、新しいことに挑戦するのも好きだから」
乾季の太陽が照りつける酷暑の屋外をよそに、ひんやりした教会。床に腕をつけたパパケイの筆先は、太陽の光に照らされている。いよいよサインをする、完成の瞬間だ。
この日パパケイが完成させた作品は、カトリック教会から依頼されたコンクリート製の彫刻。高さ3メートル、幅1.5メートル、奥行き0.8メートルの彫刻は10パーツにわけて制作され、各パーツは教会へ搬入したのち溶接して組み立てられた。薔薇の蔓(つる)がまかれた洞窟の入り口を模したこの彫刻の前に、教会が所蔵する聖母マリア像が置かれることになっている。
制作にとりかかってから、およそ半年が経っていた。この作品で得た収入は材料費をまかなう程度のわずかなものだったが、今後の自分自身の宣伝のためにもと、パパケイはこの仕事を引き受けた。入ってくる仕事のほとんどは割に合わない。でも、妻と5人の子供を養うのに必要なのは今日の現金。昨年パパケイは絵筆を置き、「最終手段」であるバイクタクシーの運転手をしてわずかな現金を家に持ち帰る日々をおくった。
教会の期待に応えたパパケイはこの直後、この教会を装飾するためのあらたな彫刻制作の仕事を得た。
(毎週土曜日更新)