ウチェのバイト
2010年4月3日
ウチェは歴史学を専攻する大学4年生。生活を支えるのは、退職した母親からの仕送りと、パート・タイムで働く姉とロンドンに住む叔父からの小遣い。これでは、授業に必要な本のコピーもとれないし、3度の食事もままならない。美容院にも行きたいし、新しい服やアクセサリーもほしい。浪人中の弟にも小遣いをあげたい。
ナイジェリアでも若者たちはバイトをする。けれども彼らが雇われることはほとんどない。雇われるとすれば、10代の子どもたちまで。それもほとんどの場合は雇用主の手伝いや見習いであって、駄賃をもらえる程度。アルバイト雑誌も存在しない。若者は自分たちで仕事を立ちあげる。それが、ナイジェリアのバイトである。
ウチェは女子大生を対象にした爪の手入れの仕事をはじめた。懐にわずかな余裕があれば、大都市ラゴスの市場でマニキュアや付け爪を安く仕入れ、イフェの大学に持ち帰る。両手の爪で150ナイラ(約90円)から。1日ひとりでも客が来れば、1食から2食分の収入を得ることができる。
“Fabulous Nails – Fix Your Nails @ affordable price in M1-107”
「ファービュラス・ネイルズ ―― M棟107号室にて、お手ごろ価格であなたの爪を素敵にします!」
ウチェの部屋のドアに貼られた手書きのポスター。同じ色のドアに消えかかった部屋番号のつづく女子寮の長い廊下で、わたしはまよわず彼女の部屋をノックする。大学生のころ一度だってバイトをしなかったわたし。目の前にあるこのドアの向こうから、たくましい彼女たちの、かしましい声が聞こえる。
(毎週土曜日更新)