黄金桜
2010年4月10日
後輪に結ばれた朱色の錠をほどき、空色の自転車をこぐ。登校する小学生たちを追い越しながら、坂道をすべるように降りる。園児を送る何台もの父兄の車を軽いブレーキでかわし、ぐるり、ロータリーをまわる。臙脂(えんじ)色の電車の下をくぐった先で片足を地面につけ、スーツを着た人びとと並んで信号を待つ。真上を行くモノレールを見上げながら坂を登りつめれば、下に見えてくる高速道路をへだてた向こうに白色の小手毬(こでまり)と桜並木。疾走をつづけて着いたこの大学院生室からも、淡紅色の、七部咲きの桜が見える。
2010 年4月。2年ぶりにむかえる日本の春なのに、それほど懐かしくない、桜を見る感覚。
「オワンビオバイイー(ここで降ります)!」
大学の正門と校舎をむずぶアスファルトの一本道。ふつうここで降りる人はいないから、バスの運転手は時速70キロを超えて走る。麦藁帽子をかぶって木の前につっ立つわたしを、車やバイクは不思議がる間もなく通りすぎていく。照りつける太陽の光を浴びた黄金色の「桜」の花びらが、砂まじりの風に舞う。
生まれ育った日本に、毎年かならずやってきては過ぎ去る、桜の季節。熱帯のかの地でも、わたしはこの感覚をおぼえていた。
(毎週土曜日更新)