ママ・ブリジッタ
2010年6月19日
彼女はわたしの住む下宿の1階に、娘とふたりで住んでいる。夫はフランスへ働きに出て4年。ふるさとのガーナへは、もう10年帰っていない。
あたりまえのことを、あたりまえに教えてくれたのは、この女性、ママ・ブリジッタだった。
疲れていて料理ができず、ピーナッツや焼きトウモロコシ、バナナやパパイヤで夕食をすませていたわたしに、ぽつりとつぶやく。「日本の母親に言いつけるわ、悲しむわね」
ズボンじゃないと日焼けするし、バイクにも乗れない。街を歩けば「女か、男か?」とばかにされるわたしを見て、一言。「休日くらいスカートはいて、アクセサリーをつけなさい」
マラリアによる嘔吐でバケツに4時間顔をうずめて、飲まず食わずのわたしに、トウモロコシ粥をさしだす。「食べなければ死ぬのよ」
娘と冗談を言いながら笑うママ・ブリジッタの声が、2階のこの部屋まで届く。彼女は言った、
「悲しんでたら頬がたれて老けてくだけよ」
(毎週土曜日更新)