ゲットー発
2010年6月26日
口をあけて、舌をだして、くしゃくしゃの顔をしてみせる。両手で胸板をたたくしぐさをくり返し、足はがにまたに。この街で生まれた音楽にのって、こうして踊るダンス「アランタ」を目のまえに、自然と顔がゆるみ、手がふるえる。アレックスと一緒に床屋へ入ると、この地域ではまず見かけないガイジンをめずらしがり、店内や近所の人たちが、おもむろに音楽をかけて踊りだした。
「アジェグンレは、ナイジェリアのサッカー選手やミュージシャンを生みだしてきたんだ」
この街で生まれ育ったアレックスは、貧しさや犯罪を乗り越えて生きる人びとのタフさ、地域で肩をぶつけあいながら、寄せあって暮らすことの素晴らしさを、よく話してくれる。
「そこは治安が悪くて汚いから、行かないほうがいい」
多くの人が口をそろえてそう言う、ラゴス随一のゲットー、アジェグンレ。
店を出れば、ガタガタの家屋と汚水の沼が目に入る。人に会えば、あたたかさが肌にふれて胸にしみる。
(毎週土曜日更新)