染みた果汁
2010年8月28日
どうしようもないえぐみが、びりびりと舌にくる。
「(中国語をまねて)チンコー! チンチョン!」もうやめて。「男か? 女か?」そんなにじろじろひとの体を見んでって。「今日はなにを持ってきてくれたの?」毎回持ってこれるわけなかろうもん。「オロリブルクッ(腐った頭)! ぼーっと歩いてんじゃねぇぞっ」そっちがバイクで蠅みたいに飛び交うけんやろ。ああもう、血がでてきたやん。
そして信じられないほどに甘い果汁が、その舌を覆う。
「疲れたでしょう、ゆっくり休むのよ」帰り道、魚屋のおばさんがかけてくれるいつもの声。「ペレオー(大丈夫? 痛かったでしょう)」でこぼこ道を行くバスのなか、窓で頭を強くぶつけた瞬間、乗客全員が振り返ってそう言ってくれた。あってないような約束の日時――アフリカン・タイム。それを毎回守り、ばかを見るわたしに、「ごめんね」を素直に言える、ナイジェリアの人びと。
「酸が強いから食べ過ぎないように」
と言われるけれど、やめられない。かじるとたれる強烈にえぐくて最高に甘い果汁は、服につくと、洗ってもとれない。それを味わった人たちが、 9ja から離れられないかのように。
(毎週土曜日更新)