父さんと母さん
2010年9月4日
「そうね、ポピシはモミシをすごく愛してたわ」
二女の大きな丸い目は、微笑みで細くなった。5年前、大学生だった彼女の下宿のテレビの上には、額縁に入れられたポピシの小さなモノクロ証明写真。いま、その写真は嫁ぎ先の家の鏡台に。
「モミシはぼくたちをここまで育ててくれた。ぼくはモミシに幸せになってもらいたいから、サッカー選手になる夢をあきらめることができたんだ」
そして二男はつぶやいた。
「ポピシに会いたい……」
涙でうるんだ目がろうそくの灯に照らされて、少年は下を向いた。
2000年、ポピシは仕事中に事故で亡くなった。モミシは煮こんだ豆を売りながら、ひとりで7人の子どもたちを育ててきた。
モミシの背なかを見てきた4人の娘たちは、明るく、たくましい女性になった。穏やかでけっしてどならない、やさしい3人の息子たちは、ポピシのようだとみんなが言う。触れられそうなくらいに、今でもここで、ふたりは見つめあっている。
(毎週土曜日更新)