犬
2011年1月22日
ケージの扉に鼻先と前足をはげしくあてながら、胸をおどらせて吠える。大好きなトペが近づいてくる。開かれた扉から飛びだして、トペのまわりをくるくるまわって離れない。笑って、跳ねて、あお向けに寝そべってみせる、ペドロ。
この町の大きな家のほとんどに犬がいる。武装強盗や空き巣を恐れ、みな番犬を飼うのだ。広い敷地内で放し飼いをする、あるいは、日中はケージのなかに入れて、暗くなるころ敷地内で放す。ペットというより門衛。散歩に連れられている犬はほとんど見かけない。道で見かける動物といえば、ヤギとニワトリとヒヨコ。
下宿先のペドロも番犬にちがいない。「犬はくれぐれもケージに入れておいてくれ」と、訪問者たちは念を押す。セキュリティには役立つけれど、よそ者を嫌う獰猛で臭いペドロはみんなに嫌がられている。それでも、飼い主にだけは、あの笑顔を見せるのだった。
(毎週土曜日更新)