Up NEPA!
2011年3月19日
コンクリートの床に転がって涼んでいると、向かいの部屋のトスィンがやって来てドアをノックした。つけ毛をほどくのではさみを貸してほしい、と。
風通しのよい玄関の階段に腰かけ、自毛に編みこんだつけ毛をひとつひとつほどいていくトスィン。ひんやりと気持ちのよい階段にわたしも座ってみる。電気が来ないとこの暑い午後に扇風機をまわせない。
大学の試験の話、彼氏の話、それから実家の話になって、トスィンは目を輝かせて言った。テクノロジーの国、日本のことをもっと聞かせてよ、と。
日本の「不自由のなさ」を話すと、彼女は笑って言った。この国で「アップ・ネパ(Up NEPA)!」を知らずに育つ子どもなんていないわ、と。
「アップ・ネパ!」とは電気が復旧した瞬間に光を浴びて発せられるナイジェリア国民の合言葉。日に何度も、あるいは数日ぶりに、ときには数週間・数か月ぶりに耳にする。
不便さといらだち、そしてここで生き抜くみんなのつよさと明るさを身に染みこませながら、ぽかりと自国を思った。便利さの果てには何があるのだろうか、と。
(毎週土曜日更新)