とくべつな恩寵
2011年5月7日
「あぁ、いたの? ごめん、気づかなかった。神と話をしてたもんでね」
ジョナサンは頭をあげてこちらを見ると、照れ笑いを浮かべて言った。格子窓から差しこむ天日で、彼の鼻とくちびるのあいだに散りばめられた汗のつぶが、またたいている。
街の教会から依頼を受け、ジョナサンは木製のドアの表面に十字架や聖人を彫っているところだった。その姿はいつになく洗練されている。きっといま、彼は神をすぐそばに感じている。
ふだんはもっぱら、ヨルバの土着信仰の神々の像や儀礼に使う装飾道具を彫るジョナサン。街の木彫家のなかではもっとも多くの顧客をもつ。けれども出会ったときから、彼はきっぱりと言いつづけている。「俺はいつか牧師になるんだ――神のとくべつな恩寵によってね」
彫ることが得意だから、彫る。食べていかなければならないから、彫る。それは生きる術でしかない。生きるすべては、キリスト教の神に仕えること。
いつかどこかの教会で、重厚な木彫りの扉を開くと、ステンドグラスから注がれる光に照らされたジョナサンが立っているのだろう。いつかきっと、彼の信念によって。
(毎週土曜日更新)