トゥンデの道
2011年7月12日
びちゃびちゃの足もと、胸まで生い茂る草木、そして、鼻につく豚小屋の臭い。掘りつづけている排水溝は大雨が降るたびに土砂で埋もれる。育てているキャッサバ(芋)は巨大ネズミに、淡水魚は深夜に泥棒に盗まれる。それでもトゥンデはここへ毎日やってきて、日が暮れるまでたったひとりで仕事をする。やっても、やっても、進まない。けれど、あきらめない。
自分の手でつくること、育てることが、子どものころから好きだった。大学3年生のとき、仕送りやバイト代すべてをつぎこんでこの土地を分割払いで買った。それから5年たった今年、やっと資金が貯まって本格的に農場づくりをはじめたが、朝から晩まで泥だらけになって働く彼を「おまえは読み書きのできない日雇い労働者か」と、知人たちは笑う。大卒の者たちは、医者、弁護士、銀行員、教員、公務員をめざすのが一般的で、農学部卒であっても実際に畑を耕す人はほとんどいない。
農場からの帰り道、日傘を差して舗装道路を歩くわたしは想像していた。脳天を焦がす乾いた日も、稲妻の走るどしゃぶりの日も、トゥンデが切り開いていく道を。
(毎週土曜日更新)