きみはやらないのかい?
2011年9月24日
この街で暮らすアーティストたちを訪ね歩き、作品をつくっているところを見たり、作品にまつわる話を聞き、ライフヒストリーをメモする。そんな人類学のフィールドワークをしているある日、ひとりのアーティストから言われた。「きみは話を聞くのが好きだね。彫ってみたくはないのかね?」
木彫家の彼は、つづけて言った。
「やってみたらいいよ、小さいものならそんなに力もいらないから」
「んー、今度やってみます」
と言ってメモを取りつづけた、あの日のわたし。
なんで彫刻刀を即座に握らなかったのだろう? 言葉にできない、口では伝えられない、自分の体で感じないとわからないことがあることを、ペンとノートを持ったわたしに教えようとしてくれたのかもしれない。
人びとを観察する。人間の暮らしを、生き方を記録して、論じる。
「文化って、社会って、なんだろう。人間って、なんだろう」
そこへすこしでも近づこうとしているのが人類学者と呼ばれる人たちであるのなら、見ていても、調べても、共感しようとしても、わからないことがたくさんある。周りを見ず、自分にだけ集中してやってみることもきっと必要なのだ、そこへ近づくために。
(毎週土曜日更新)