清水弘文堂書房マーク 清水弘文堂書房 SHIMIZU KOBUNDO


あおぞらエンターテイメント

2011年11月19日

2008年8月9日 イフェ北部 イペトゥモドゥの王宮敷地内にて

雨期もたけなわ、ヨルバの地ではエグングンと呼ばれる祖先崇拝の祭がおこなわれる。キリスト教とイスラム教が主流となったこの国では、土着信仰である祖先崇拝はわずかな信者たちによってひっそりとしかおこなわれなくなった。それでも祭囃子と熱気に誘われれば「信仰」はにのつぎ。映画館や水族館、サッカー場もテーマパークもないこの地で年に1度の「あおぞらエンターテイメント」は、人びとを集わせ、魅了する。

頭から足の裏まで布で厚く覆われているエグングンの踊り手は駆けまわるように舞う。なんじゅうにも重ねられた古い布ははためいて何度もめくれるのに、内側の正体は見えない。目も鼻も口もない踊り手の脳天には動物の角や骨をあしらった不気味な木製の仮面。男たちはそのまわりで木の枝をふりまわし、鞭打ちあい、はやしたてる。踊り手は観衆の群れをめがけて走りだす。男たちも追って走る。逃げだす観衆たちは声をあげ砂埃を立てて散っては、また群れる。集まった老若男女はもう、数えきれない。

Photo
全身を布で覆われたエグングンの踊り手や、はやしたて役の男たちを見に王宮に集まった人びとの一部。子どもたちはトラックのうえの見晴らしのよい席でたのしんでいる。エグングン(踊り手に宿った祖先の魂)を見ると、頭上で大きく輪を描くように両手をまわす風習がある。アクロバティックな舞と男たちのはげしい衝突(木の枝で鞭打ちあう)で祭は盛りあがる。踊り手は太鼓奏者たちを引き連れて家を出発し、街をまわって王宮に到着すると、王に舞を披露する。舞を終えると王のまえでひざまずき、王からの祝福と報酬を受けて家へ帰っていく。毎年6月から8月にかけてヨルバランド各地でおこなわれる祭だが、キリスト教徒の反対により中断したり廃止された地域もある。
2008年8月9日 イフェ北部 イペトゥモドゥの王宮敷地内にて

(毎週土曜日更新)