Quora = Party
2011年2月18日
最近注目を集めているQuoraというサービスをご存知でしょうか。今回は、このサービスについて、注目されている理由から、サービスとして優れた品質を保っている本質までを考察をしてみたいと思います。
Quora
Quoraはいわゆる招待制のQ&Aサイトです。質問を投稿すると、ほかのユーザがその質問に対して直接回答してくれるものであり、データベース的な視点でいえば、人間検索エンジンとでもいえるでしょうか。日本語で利用できる類似サービスも多いので、読者のみなさんも、例えば、教えてgooやYahoo!知恵袋、OKWave、Q&Aなう、のようなサービスを使用したり、閲覧したりしたこともあるのではないでしょうか。こうした日本国内向けのサービスでさえこのように複数のサービスがあることもあり、Quoraというサービスは、まったく新しい仕組みという訳ではありません。それでは、なぜ、こんなに注目されるようになったのでしょうか。
注目されている理由
Quoraが注目されている理由は、枚挙にいとまがありません。これまでにも多くの人がそれを紹介し、論じてきているので、筆者が改めて定義をするまでもないのですが、いくつかについては紹介をしたいと思います。
ひとつ目は、従来のQ&Aサイトとは異なり、FacebookやTwitterとの連携機能や、質問自体をフォローするような機能が盛りこまれていることです。また、ソーシャルメディアに慣れ親しんだユーザを惹きつけるだけでなく、サービスそのものについての波及しやすさも備えています。
ふたつ目は、ほかのサービスとの違いとしてよく議論されているのが、高品質でタイムリーな回答内容と、回答者の蒼々たるラインナップです。例えば、「サンフランシスコのベイエリアで、どのスタートアップ企業が人材募集中?」という質問に対して、 Twitter や Square 、 Foursquare 、 Path などの企業の社長や採用担当者が直接回答を寄せています。また、例えば、昨今写真共有サービスが注目を集めていますが、Instagr.amに続くと話題のサービスであるPathについて質問をすれば、Pathの創業者でCEOのDave Morin氏が直接回答を寄せてくれる、といった具合です。
最後は、米Facebookの元CTOであるAdam D’Angelo氏と、同じくFacebookでエンジニアをしていたCharlie Cheever氏が成長著しいFacebookを辞めてまで創業した、ということも話題になっている理由のひとつです。
これらのほかにも、FacebookやTwitterのように初期ユーザの品質が高かった、実名主義が功を奏した、招待制だったからなどといった、さまざまな議論がなされています。
ショーやパーティーはセルフ・ブランディングの場所
いろいろな理由があって注目を集めているとしても、それだけでは、回答者や回答内容の品質を高く保ち続けることは、それほど簡単ではありません。それでは、その本質はどこにあるのでしょうか。結論を導きだす前に、少し話が逸れますが、ファッション・ショーやブランドのレセプション・パーティーを思い浮かべてみて下さい。
アカデミー賞の授賞式でもいいかもしれません。豪華な会場で、蒼々たるセレブリティや著名人が、華やかな衣装を身にまとい、会場内でコミュニケーションをしています。彼らがそのパーティーにいる理由はひとつ。招待をされたからです。そのショーやパーティー、すなわち、そのブランドの新しい商品を発表し、その素晴らしさを世界に発信するための最初の場所を彩るために、会場や音楽を彩るのと同じように、人気や影響力のある人物がパーティー会場に招待されているのです。ファッション業界のみならず、関連する音楽や広告の業界の人びと、さらにタイムリーなスポーツ選手なども招待されています。会場内での話題は、そのまま、ビジネスチャンスにもつながります。なにより、会場内での存在感は、その人の、現時点での、周囲の業界への影響力の高さそのものなのです。
実際、筆者がそのような場所で気がつく点は、どのパーティーに参加しても、同じ人によく遭遇するということです。参加するには招待をされることが重要と述べましたが、いつも会う人たちは、すなわち、招待をされ続けているということを意味しています。彼らは、ファッション・ブランドの価値を高め、世界に波及させる影響力があると思われている人たちです。つまり、逆を返せば、招待をされなくなったら、その業界での影響力が低下した、あるいは、存在感を示し続けることができていない、ともいうことができるかもしれません[1]。同時に、参加したいと思わせるショーやパーティーを主宰するブランド自体が、現時点で魅力的であるということも、そのような素晴らしい参加者たちを惹きつけるために重要です。
Quora = Party
Quoraが回答者や回答内容の品質を高く保ち続けている理由に話を戻しましょう。
すでにおわかりかもしれませんが、筆者の結論は、とてもシンプルです。Quoraで回答をすることは、パーティーに行くようなものです。Quoraにユーザ登録をするための招待が届くことは、誰もが憧れる華やかなパーティーへの招待状が届くのと同等です。そして、Quoraで回答することは、パーティー会場でたくさんの人の注目を集めるセレブリティや著名人になるようなものです。そして、これが、Quoraが回答者や回答内容の品質を高く保ち続けている本質的な理由ではないかと、筆者は考えています。
そして、そのパーティーは、シリコンバレー、テック業界、スタートアップ企業、ソーシャルメディアについてのものです。この業界が現在バブルともいわれるほどに注目を集めています。そして、その中心地であるシリコンバレーで活躍していくために、あるいは、自らの素晴らしいアイデアの説得力を高めるために重要なことは、起業家や技術者、投資家として、その場所で存在感を放ち、自らの専門性や実績、能力の高さを示すことです。「一人企業」のみなさんは、こうした「パーティー」に参加することで、広告としてではなく、能力やスキルやアイデアの価値や実績などを武器に、自らのブランドを構築していくことができるのではないかと思います。
テーマは限定されていますが、シリコンバレー、テック業界、スタートアップ企業、ソーシャルメディアなどのテーマに限定して、蒼々たる回答者を惹きつけ、議論や回答の品質を高く保ち続けている理由はここにあるのではないかと、筆者は考えています。
そして、同時に考えるべきことは、Quoraの賞味期限は「パーティーが魅力的であり続ける限り」ということになります。世界中のどこであっても、素晴らしいアイデアと技術を持った優れたスタートアップ企業を輩出し続け、そして、それを周囲でサポートするエコシステム(環境系)がよい循環を保ち続け、さらに、AppleやGoogleやFacebookほどでなくとも、優れた成功事例を輩出し続けることができれば、この「パーティー」は魅力的であり続けることができるのだと思います。
筆者の願いは、沢山の日本の若いサムライ「一人企業」家たちが、このパーティで異彩を放ちながら、活躍をしていくことです。しかも、とても近い将来に。
余談
パーティー、あるいは、人間の集団行動の分析については、川喜田二郎著『パーティー学』が名著です。パーティーのそのもののみならず、「一人企業」のみなさんのセルフ・ブランディングのヒントのみならず、「一人企業」間での創造性やチームワークについても参考になるのではないかと思いますので、是非参考にしてください。
また、この『パーティー学』については、かつて、清水弘文堂書房の先代である礒貝浩氏とも言葉を交わしたことがあり、記事を書きながら、「いつかなにか一緒にやろうぜ」と清水弘文堂書房のパーティーで声をかけて頂いたのを懐かしく思い出しました。
- [1]かならずしもこの限りではないとは思いますが。↩