楽観的に、英語で話そう
2011年4月29日
2011年4月23日にSamurai Venture Summit(SVS)というイベントに参加してきました。今回は、イベントのなかで印象に残ったお話を、ここで共有させて頂きます。
Samurai Venture Summit
SVSは、シード・アーリーステージのベンチャー企業(つまり新進気鋭のスタートアップ企業)への投資と育成を行っているサムライ・インキュベート(Samurai Incubate)の主催するイベントで、 昨年より年に2度開催されています。ぼくははじめての参加となりました。
イベントは、一見 “男子校的” なノリのなかにも、正しいと信じたアイデアを、情熱を持って、クリエイティブに実践している人たちばかりの集まる場所であり、お互いのアイデアや実践を尊敬し合えるような温かい雰囲気がありました。
また、サムライ・インキュベートの代表である榊原健太郎さんの人柄もあってか、Yahoo! Japanの立ち上げやZyngaへの投資で知られている孫泰藏さんや、ネットエイジ代表取締役社長の西川潔さん、多摩大学大学院(MBA)客員教授の本荘修二さんなど、蒼々たる参加者やスピーカーのみなさんも、若いぼくたちと同じ目線で場をつくって下さり、示唆に富んだ、とても刺激的な時間を過ごすことができました。
朝から晩まで盛りだくさんで行われたプログラムはどれも印象的でした[1]が、そのなかで、孫泰藏さんのお話が特に印象に残っているので、ここで紹介をしたいと思います。
楽観的=戦略的
一つ目のお話は、「楽観的に思えるまで、突き詰めることが大切」というお話です。
通常、楽観的な人について語るとき、それは、物事がうまく行くと考えて心配しない人を指します。辞書にもそう書いてあり、類義語として「無鉄砲」や「無謀」「向こう見ず」「命知らず」などが想定されます。
しかし、よく考えてみると、楽観的たる理由はもうひとつありえます。無鉄砲に後先考えないのではなく、逆に、とことん突き詰めて考え抜いた結論が楽観的な場合です。
ぼくらに関していうならば、世界を変えることができると信じたアイデアについて、最も悲観的なシナリオも含めたありとあらゆる可能性や、生じる影響とその対処方法などについて考え抜きます。その結果、たとえ悪い方向にいったとしても、「ここまでの状況であれば、このように対処すれば大丈夫」であるとか、「どんなに失敗しても、これくらいの状況で手を打てば、大丈夫」であるといったことが頭に入っていれば、心の準備も、計画上の行動指針の準備もできているため、合理的な判断がくだせる、ということです。
楽観的に思えるまで突き詰めて考え抜くことによって、素晴らしいアイデアを実践していく道筋を描くことができるのみならず、そのアイデア、あるいは、哲学を、自分がどのように生きていくのかといった「志のレベルにまで高めていく」ことができるのです。
つまり、楽観的であるとは、同時に悲観的でもあり、固執的でもあり、戦略的でもあるのです。
孫さんの座右の銘だという最澄の「一隅を照らすもの、これ国の宝なり」という言葉は、まさに、無鉄砲に見えるアイデアを、しっかり考え抜いて、具体的な戦略を持って、国家や社会を変革していける起業家こそが、今まさに困難に立ち向かおうとしている日本の宝なのだというメッセージだと受け取りました。
英語で話そう。英語で売りこもう
お話すべてがとても刺激的で示唆に富んだものでしたが、そのなかからもうひとつだけ紹介したいと思います。それは、「製品やサービスを提供する際に、まず英語で提供しよう」という話です。
そのために、「英語を猛烈に勉強しなさい」とか、「ネイティブのように話せるようになりなさい」といったお話はありませんでした(ぼくの記憶の限りでは)。では、どういうことなのでしょうか。
孫さんのメッセージは、「最初から英語でサービスを提供することで、国内だけに目を向けて、当初の哲学やアイデアを小さいものにしてしまわないで欲しい」というものでした。「世界中で、英語が母国語でない国のベンチャー企業でも、必ずといっていいほど、まず英語でサービスを開始している」ともおっしゃっていました。
物怖じしない
ぼくは、このメッセージには、もうひとつ重要な示唆が含まれているのだと考えています。それは、「物怖じしない」ということです。ぼくの尊敬する友人でもある鈴木仁士くん[2]のように。
ぼくは国内で育てられましたので、必ずしも「英語がすごくできる」というわけではなく、現在でもアメリカの子どもにも遥かに及ばない英語力しか持ち合わせていません。
しかし、だからこそ、できる限り英語を使うようにしています。英語で話すようにしています。ハリウッド映画は日本語字幕で一度鑑賞した後に、再度英語の字幕表示で鑑賞しています。内容が頭に入った上で、英語がスムーズにしみこんできます。海外の音楽を聴いているときには、常に歌詞カードを片手に知らない言葉を辞書で調べています。そして、外国の方と場を共有する機会があれば、とにかく英語で話しかけるようにしています。学生の頃には、修士論文や博士論文を、ヘタクソながらも英語で書き上げました。
世界を変えるという意気ごみでスタートアップを始めたときに、同じく今回のSVSのスピーカーだった佐々木・ジョン・洋介さん(図2)もおっしゃっていたとおり「必ずしも英語が得意である必要はない」のかもしれません。 ぼくが現在使っている英語も、基本的に中学生の時に学んだレベルの基本的な文法と、自分の専門分野の数少ない語彙だけで成り立っています。
蛇足ですが、ぼくの経験からくる憶測では、日本で義務教育の中学校を卒業しているみなさんは、全世界の英語力レベルでは「上位20%以上の英語が使える層」にあるのではないかと思っています。ぼくの訪れたことのある東アジアや東南アジア、東欧の国のほとんどの人の英語は、ネイティブスピーカーであるアメリカ人やイギリス人が話すそれとは比べ物にならないほど違うものです。では、アメリカ人の英語が正しいのでしょうか? 英語が彼らの母国語であるというだけの話です。ネイティブスピーカーを除く、そのほかすべての地球人が話す片言の英語の方が、世界の標準英語であり、英語のマジョリティなのです。
チャンスは自分でつくる
積極的に発信し、積極的に関わっていくことで、思いがけないようなチャンスが目の前に転がりこんでくることもあるのです。
ですので、みなさん、英語を使いましょう。そうすれば必ずこの「思いがけないチャンス」に巡り会うことができます。英語を使っていると、日本語の精度も飛躍的に向上します。TechCrunchの記事は英語で読みましょう。日本語に翻訳されているのは膨大な有益な記事のなかでもごくわずかに過ぎません。それぞれの記事に対して現地の人がどのような反応をしているのか、コメントから伺うことができますし、その議論に参加することもできます。Quora上で英語で質問し、英語で回答しましょう。上手な英語でなくても、思いがけずシリコンバレーの投資家から連絡が来ることがあります。シリコンバレーのエンジェル投資家が来日したら英語で売りこみましょう。文化や言葉の違う相手であっても、あなたの情熱が、一番大切なメッセージの伝達を手伝ってくれます。英語が得意か、あるいは、上手かどうかではなく、使うことが大切なのです。
- [1]本荘修二さんのブログでもSVS当日の様子が紹介されています。↩
- [2]鈴木仁士くんは、一人企業もご支援を受けているOpen Network Labの2期生。彼が、いかに物怖じせず、能動的に、行動的に、世界と関わって、沢山の人を惹き付けているのかは、彼のブログからも伺えます。↩