サッカーをとおした地域交流の可能性
2010年8月30日
写真: サッカーやバレーボール大会は、「ナショナルデー」や「抵抗記念日」、伝統的な祭事のエンターテイメントとして行われている。” title=”サッカーやバレーボール大会は、「ナショナルデー」や「抵抗記念日」、伝統的な祭事のエンターテイメントとして行われている。
サッカー熱
4年に一度のサッカーの祭典、ワールドカップ。きっと、難民キャンプではライブ映像では観られないが、盛り上がりをみせていたに違いない。
難民の情報源となるビルマ語の新聞や雑誌(なかには英語もある)のトピックで、とくに若い男性が関心を寄せるのは、サッカーのヨーロッパリーグに関する記事である。
熱狂的なサッカー好きは、筆者よりもヨーロッパのサッカー事情や選手に詳しい。ベッカムのここが優れているとか、ロナウジーニョがいるからこのチームは強いとか、熱っぽく語ってくれる。彼らがサッカーについて詳しくなったのは、難民キャンプにたどり着いてからである。
アーセナルを愛してやまないガブリさん(仮名)もまた、キャンプにきてから、テレビや新聞、雑誌でヨーロッパのサッカーリーグや選手にのめりこんでいった。タイやビルマのサッカーはレベルが低いので、まったく興味がないという。彼が、アーセナルを応援するのは、若いころから選手を育成するチームの精神に賛同するからだ(私はアーセナルのことは知らないが、彼はそう言っている)。
若者には、基本的に仕事がない。仕事にありつけたとしても、ひたすら資料をタイピングしたり、NGOの下働きといった雑用しかまわってこないと彼は言う。だから、仕事にやりがいを感じない。こうした現実が、若い世代を育成するチームを応援するひとつのきっかけになっているようだ。
難民と地域社会の関係
ところで、スポーツは、若い世代の楽しみのひとつである。毎年開催される伝統行事や、「ナショナルデー」などの記念日には、かならずサッカー大会、バレーボール大会、レスリング大会が開催される。また年に一度、キャンプの難民チーム、キャンプのセキュリティのチーム、キャンプ周辺村のチームが総当たりとなるサッカー大会が開催される。
サッカー大会は、若い世代がキャンプのセキュリティや地域社会と積極的に交流する数少ない機会である。というのも、難民をバカにするセキュリティの横柄な態度や女性問題から、両者の関係は必ずしも良好ではないからだ。また、日常的に難民はキャンプの周辺村で、季節労働者として就労することで現金を得ているが、問題がないわけではない。キャンプ外での就労は違法なので、弱い立場にある難民は搾取されやすく、給料の未払いでもめることもある。これとは別の理由で、若者は周辺村では働きたがらない。それは、教育があるのに肉体労働につくことは「ださいこと」と考えられており、働く姿を見られたくないと思っているからである [1] 。
このような断絶(もちろん、これは難民と地域社会の関係の一面にすぎない)の側面に焦点をあてると、スポーツは、国境や民族をこえた「つながり」の契機となるのだろうか。
注1: 日本政府は第三国定住という難民支援制度で、カレン難民5家族27人を呼び寄せる。その第一陣が、9月28日に来日する。半年間、言語や生活習慣を学んだ後に定住生活を開始するが、具体策はまだ明らかではない。「カレンはもともと農民だったから」という理由で、農業をすればよいのではないかという案が関係者から出されていたようである。しかし、肉体労働ではなく知的労働を望む若い世代の希望を踏まえれば、「農業による定住」案は、拙速に過ぎるといえるだろう。 [ ↑ ]
(毎月15・30日更新)