難民とタバコ
2010年10月31日
写真: この絵や9月15日の記事に掲載した絵は、「モーニングスター」という若者が結成したグループの活動の一環として描かれた。難民が組織するグループや団体は、フォーマルなもの、インフォーマルなものをあわせると、30以上にのぼる。「モーニングスター」はインフォーマルな部類にはいる。
嫌煙
禁煙や嫌煙は、世界的な潮流である。
「タバコには百害あって一利なし」という考え方は、難民にも浸透している。ただ彼らは、金銭的な問題から、タバコを日常的に吸っている人はそれほど多くない。かわりに、安価な葉巻や、タバコ入りのビンロウが嗜好されている。どちらも手に入りやすいので、抵抗はない。タバコを吸う女性は少ないが、ビンロウは男女を問わず嗜好されている。
しかし、支援の一環としておこなわれる「健康増進」「嫌煙教育」が功を奏してか、タバコへの忌避意識は高まりつつあるように感じられる。
ムプレ(20歳代・女性)は、半年前にシャン州から来たばかりの男性と結婚して、アメリカ行きを待っている。この男性は、ムプレが「タバコを吸うな、酒を飲むなと怒るから大変だ」と愚痴をこぼす。彼女の「禁煙ファシスト」ぶりに辟易した彼は、「それなら結婚しなかったのに」とぽつり。それを聞いた彼女は、「いまは女性が強いのよ」と得意げである。こんな「逆転」も、教育の「効果」であろう。
ただ、嫌煙観の「受け取られ方」は、やや教条的で極端な場合もある。
というのも、喫煙と飲酒は、社会問題となっている家庭内暴力(DV)とリンクしてイメージされることもあるからである。
絵にこめられた思い
この絵には夫、嫁と子どもの3人の家族が描かれている。この絵の構図は、タバコを吸う夫、そして夫からのDVを心配する嫁というものである。絵を描いたのは、ターワー(20歳代・男性)だ。この日の活動は、キャンプで問題になっていると思うこと、将来の夢や希望を絵で表現するというものである(9月15日の記事も参照)。
ある程度の年齢を重ねた青少年が、こういう活動をすることに疑問を持たれるかもしれない。こうした活動が行われるのは、彼ら自身が「難民には自分の考えを自由に表明する機会がない」ことを問題視し、自分の思考や内面を発表し、他の人と共有する場が必要だと考えているからである[1]。
そのなかでターワーは、キャンプでも社会問題とされているDVを、男性側に力点をおくかたちで表現した。日本でも、しばしばタバコと非行・暴力はイメージとして結びつけられやすいが、直接DVと関連づけられることはないだろう。ムプレが「タバコを吸うな」と口を酸っぱくして言うのは、結婚したばかりの夫が、DV夫予備軍かもしれないという意識が働いているからかもしれない。
不思議なことに、暴力と結びつけられるのは、煙をふかすタバコであって、タバコ入りのビンロウではない。ビンロウはビンロウで、発がん物質があるとか歯がボロボロになるからという理由で、「問題視」されてはいる。それでも、タバコほど嫌われてはいない。
タバコで肩身の狭い思いをするのは、私たちからみて「地の果て」にある難民キャンプも然りである。
いや、もしかすると、規格化された支援パッケージのもと、「世界のトレンド」がいちはやく取りこまれる難民キャンプこそ、世界の「中心」なのかもしれない。
- [1]彼らが「問題発見・解決型」の思考方法になってしまうことには、別の問題があるが、その点は別の機会に述べたい。↩